男女逆転の『大奥』はリアルな「もしも」を読者に考えさせる
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男女逆転の『大奥』はリアルな「もしも」を読者に考えさせる

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ひろみべ

漫画も小説も大好きな活字中毒です。暇があればひたすら何かを読んでいたい。古典から転生ヒロインものまで守備範囲は広めです。休日は動画配信サービスで映画と海外ドラマ三昧。おすすめはゲームオブスローンズ。

仕事をしていると「いつ頃に結婚し子どもを産むか」という話を同僚とすることがあります。

結婚はいいけど、子どもを産むとなると産休の時期や、職場復帰のタイミングなど、色々考えることが沢山あって、仕事をしながら子どもを産むハードルは高いな……と正直感じる今日この頃。

以前よりは良くなってますが、まだ世間的には「女は子どもを産んだら仕事はセーブして、子育てに力を注ぐべし」という空気は、年配層を中心に強いと思います。

父親の育児参加が呼びかけられても、実際男性が心おきなく育休を取得するのはもう少し時間がかかりそうですよね……。

ただ、その「女は子育て、男は仕事」の価値観を覆すことは、そんなに難しいことなのでしょうか。

今当たり前のようになっている常識や制度は、なにかのタイミングで一気に変わってしまう可能性があるのです。

漫画『大奥』を読んで、私はそう思いました。

『大奥』は『きのう何食べた?』や『西洋骨董洋菓子店』で知られる、よしながふみさんが隔月で連載している作品です。

実写映画化もされ、連載中でありながら日本だけでなく海外の賞も受賞されている、漫画『大奥』。

そのテーマは「もしも徳川将軍家の将軍が、代々“女”」だったら?」

奇想天外にも思える内容の『大奥』ですが、読みながらその「もしも」を深く考えさせられる作品です。

大奥 1
(出典:大奥(1):よしながふみ)

「大奥」あらすじ

江戸幕府三代将軍家光(いえみつ)の時代、若い男子にしか罹らない「赤面疱瘡(あかづらほうそう)」という奇病が日本中に広がりつつありました。

この病気は致死率80%という恐ろしい病で、治療法も見つりませんでした。

結果、男子の人口は激減し女子の4分の1しかいないため、必然的に社会の構造は変わっていくことになります。

女子は労働と子育てをし、男子は家で大切にされ子種を提供するか、貧しい者は遊郭へ身を売ったりする者もいました。

あらゆる家業は女が跡取りになり、それは江戸城にいる将軍職も同様だったのです。

違和感がいつの間にか制度に変化するということ

『大奥』を読んで興味深かったのは、はじめは女性が将軍になっても、男女の差別意識はあまり変わらず、むしろ男装させて女性であることを隠そうとしているほどなのに、年数が経ちそれが「当たり前」になってくると、今度は「将軍は女がなるもの」という常識に変わっていくところです。

男性の方も、仕事をしたくても「男だから」という理由でクビになったり、男子の家督相続は認められなくなったり、世間的にも女尊男卑が強くなっていきます。

この流れの描写が非常にリアルで、説得力があるため、読んでいてゾクッとなる瞬間でもありました。

世の中の常識や制度は、はじめは曖昧な「そういうもの」といった感覚ではじまり、いつの間にか「常識」として成り立ち「制度」へと変化していく、その流れをまざまざと見せつけられた気がします。

「男など」と言われる違和感に覚えるもう一つの違和感

この作品のある場面で、政治について口を出そうとした男に、その男の母親が発した言葉が『大奥』という作品の凄さが出ています。

『そもそも男など女がいなければ、この世に生まれ出でる事もできないではないか。

生まれたら生まれたで、働くのも成人して子を産むのも全て女に押し付けて

己はただ毎日女にかしずかれて子作りをするだけ』(引用元:大奥/よしながふみ/11巻)

この逆パターンで、ここまで酷くはなくても、ずいぶん前に女性を「産む機械」と例えた政治家がいて、一斉に叩かれたことを思い出しました。

ニュアンスは違いますが、どこか近いようにも感じます。

『大奥』の男が「子種」という扱いをされることに、読みながら違和感を覚えていましたが、同時にその違和感は現代の自分たち女性に覚える「子宮」への既視感でした。

史実に沿って進んでいく男女逆転の歴史の行方

徳川家の女将軍は家光の代から幕末まで続き、江戸の様々な事件をもう一つの裏側から描写します。

登場人物が代々の将軍の特徴をつかんでおり、まるで歴史書のような丹念さで徳川幕府を描く『大奥』は、いくつもの「もしも」を頭に巡らし、今いる自分の場所へ考えを行きつかせる素晴らしい作品だと思います。

女性の生き方に微かでも疑問を抱いた人に、ぜひオススメしたい作品です。

今回紹介した作品はこちら

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